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19歳、どういう道に進むべきか悩んでいる時に見ました。何をしたいのかも分からず不安だった自分が「苦悩がぼくの誇りなんだ」と陰気にセリフを吐く主人公アレックスの姿に重なって、とても共感したのを覚えています。
ストーリーは冒頭から暗い。恋人を奪った親友を殺そうとして思いとどまったアレックスは偶然、恋人とうまくいっていない女性ミレーユと出会い運命を感じます。
登場人物はみんなどこか病的。自分が19歳だった時はそういう雰囲気がはやっていたように思いますね。今になって見返すと、当時の青臭かった自分の姿がよみがえって身もだえしてしまいました。
30歳を過ぎて1年間この映画の舞台であるパリに住んだのですが、アレックスみたいに狭いアパルトマンに一人でいたし、夜、一人で黙々と散歩するのも好きだった。その頃は作品の事を忘れていましたが、今考えてみると少なからず影響を受けていたのではないでしょうか。
現在2歳の息子がいるのですが、だからこそ印象に残った場面がありました。最初の方で、女性が幼い娘と車に乗っていて夫と別れるためのセリフをリハーサルしているんです。すると娘が「言わないでよ」と泣き出した。子どもって、大人の話が分からなくても緊張した雰囲気を感じて不安になったりするんです。当時22歳の監督が、子どもを持たないと分からないような機微を描いているのはすごいですね。
聞き手・西村和美
監督・脚本=レオス・カラックス
製作=仏
出演=ドニ・ラバン、ミレーユ・ペリエ、キャロル・ブルックスほか じゃんぽ~るにし
1972年生まれ。独自の視点で仏パリでの生活を描いたエッセー漫画が人気。「モンプチ 嫁はフランス人」(祥伝社)が発売中。 |