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レコーディング時はいつも譜面のタイトル横に曲のイメージを落書きするの。孤独を背負い、寂しく酒を飲む男の後ろ姿。1979年の紅白歌合戦のトリで歌った「舟唄(ふなうた)」の譜面に描いたのも、こんな絵でした。
「お酒はぬるめの燗(かん)がいい/肴(さかな)はあぶったイカでいい」。阿久悠さんの詞を2行読んだだけで「これは売れる」と確信した曲。北海道を舞台に男女の人間模様を描くこの映画で3回流れます。増毛町の小さな居酒屋で、主人公の刑事を演じる高倉健さんとおかみ役の倍賞千恵子さんが出会うシーン。恋愛中の2人がカウンターで紅白を見る場面。最後は別れの時。テレビから流れる「舟唄」に乗って、増毛駅のラストシーンへと向かう。切ないですよね。
完成披露の試写会で初めて見た時、紅白のシーンが使われるとだけ聞いていたので驚きました。そして、その場にいた健さんは、私に「八代さん、これはね、『舟唄』という映画なんです」とおっしゃったの。「いつもテープを持ち歩いて聞いていた」とも。感激しました。
実は私、売れない20歳の頃、2年間、すでに大スターだった健さんのショーの前歌として全国を回っていたんです。健さんは自分の出番はまだなのに、私のステージの袖に来て「勉強させてもらいます」って頭を下げるような方でした。
「舟唄」が流れるエンディングと、健さんとの思い出と。私の歌手人生の魂とも言える映画です。
聞き手・曽根牧子
監督=降旗康男
脚本=倉本聰
出演=高倉健、倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつこ、大滝秀治、宇崎竜童ほか やしろ・あき
1971年デビュー。仏の美術展「ル・サロン」に5年連続入選するなど画家としても活躍。9月、広島・天満屋福山店で個展を開催。 |