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長谷川義史さん(絵本作家)
「泥の河」(1981年)

精いっぱい生きる 強さや悲しさ

 長谷川義史さん(絵本作家)<br>「泥の河」(1981年)

 

 僕、主人公ののぶちゃん(信雄)にそっくりやったんです。姉から「あんた見てみ」って言われて。初めて見たのはもう20年くらい前じゃないですかね。

 舞台は昭和31(1956)年の大阪。安治(あじ)川の河口にあるうどん屋の息子、信雄と、対岸につながれた「郭舟(くるわぶね)」で母親と暮らす兄妹、銀子と喜一との出会いと別れを描きます。

 仲良くなった信雄と喜一は天神祭を見に行くことに。でもせっかくもろたお小遣いを落としてしまった喜一は、舟に戻ると飼っていたカニに火をつける。最初見た時はわけわからへんかってんけど、彼はお金も持ってへんし、貧しい子やから「僕にはもうこれしかでけへん」って。大事にしてたカニに火をつけて、友情や絆を表現したんやと思います。

 最後は兄妹の舟が逃げるように去っていく。子供らには何の罪もないし、体を売って生活の糧を得ている母親だって、生きていかんがためやのに、顔隠して、頰かぶりするように去っていくあの姿がね、ほんまに悲しい。でも悲しいお話やのに、何でいいと思うんやろか。生まれてきて、何とか生きていくっていう、強さや悲しさに感動があるんかな。

 絵本を通じて子どもたちに伝えたいのは「生まれてきてね、よかったやん」っていうこと。この映画のような悲惨な状況の子を知らず軽はずみかもしれへんけど、生きてたら素晴らしいことがあるやろうし、またそういう出会いが必ずあると思うんです。

聞き手・相田香織

 

  監督=小栗康平
   原作=宮本輝
   出演=田村高廣、藤田弓子、加賀まりこ、朝原靖貴ほか
はせがわ・よしふみ
 1961年生まれ。代表作に「いいからいいから」など。9月19日~11月23日、新潟県長岡市の市栃尾美術館で絵本原画展を開催。
(2015年9月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)