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米国西部の砂漠にあるカフェ。長距離トラックが立ち寄り、モーテルとガソリンスタンドを兼ねる。そこに太ったドイツ人女性旅行者のジャスミンが現れる。
一言でいうと何げない幸せを探す物語です。この絵に描いたのはジャスミン。彼女は車で旅行中に旦那とケンカ別れをし、砂漠をあてもなく歩く。すると夫に家を出ていかれたカフェの女主人ブレンダや滞在客と出会い、友情を育んでいくというだけ。「人生ってそういう偶然性でいいんだ」って思う。一瞬にして不幸とラッキーが同時にやってくるような。セリフは少ないのに「いい映画を見たかも」と余韻を残す何かがある。
全体を鮮烈に印象づけているのが黄色。特にコーヒーが入った黄色い魔法瓶の存在感がすごい。店のカウンターに置かれ、振動でカタカタと動く姿が可愛く話をしているみたい。俳優並みの重要な役回りです。監督が色で作品をコントロールしているのがわかる。空、砂漠、衣装もほぼ黄色で染め上げています。
男性客が遊ぶ黄色いブーメランが、青空を背景に低空を旋回する場面も清涼感がある。店の客や家族はいつか必ずカフェに帰ってくる――。そんなブレンダの願いを暗示しているように思います。
街や物が丁寧に描かれる作品が好き。人間ばかり登場する映像だと誰がどうしたかだけになってしまう。人と物がいつどこに存在するかで、心象は変わるから。時間表現や構図など僕にとって教科書のような作品です。
聞き手・石井広子
監督・共同脚本=パーシー・アドロン
製作=独
出演=マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダーほか ひこ・すけあ
1962年、埼玉県生まれ。短編アニメを140作以上手がける。9月25日にNHK Eテレ「てれび絵本」で「北斎えほん」(5分)を放映予定。 |