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牧野伊三夫さん(画家)
「ラスト・ショー」(1971年)

青春の終わりかけ 少年の葛藤

 牧野伊三夫さん(画家)<br>「ラスト・ショー」(1971年)

 

 1951年、米テキサス州の小さな町に暮らす男子高校生サニーとその親友デュエーンたちの青春物語です。2人には恋人がいて、町唯一の映画館でデートを楽しみながらも、どこか相手に物足りなさを感じていた。やがてサニーがデュエーンの彼女に好意を持ち始め、2人の友情に亀裂が入ります。キラキラした青春ではなく、少年たちの葛藤や田舎町特有の閉塞(へいそく)感など、人物の内面を淡々と描いています。

 高校時代ってこれから嫌でも大人にならないといけない、青春の終わりかけの時期ですよね。そして「恋と友情はどちらが大切か」という答えの出ない問いに悩む年齢でもある。僕にも似たような経験があります。そんな戸惑いにラジオから聞こえてくるカントリー歌手ハンク・ウィリアムスの歌がよく似合う。子どもの頃に聞いた「ジャンバラヤ」が流れて来て、昔の自分と重なりました。

 寂れた町にピューッと風が吹き荒れる冒頭のシーンなど、全体的に文学的で、どこか気だるい雰囲気が漂います。70年代の作品なのに、あえてモノクロで撮っているところもいいですね。

 特にサニーとデュエーンがポンコツ車でメキシコまでドライブに行く場面が好きで、僕もまねしてドライブしたことがあったな。時間もかかるし、若いからこそできる旅。そんな場面を絵にしました。見終わった後、昔の自分に戻れる気がして、何度でも見たくなる作品です。

聞き手・永井美帆

 

  監督・共同脚本=ピーター・ボグダノビッチ
   製作=米
   出演=ジェフ・ブリッジス、シビル・シェパードほか
まきの・いさお
 1964年生まれ。代表作に「かもめ食堂」(群ようこ著)の装丁など。12月18~23日、東京・原宿で個展。12月、初の画文集を刊行。
(2015年10月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)