読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
60プレゼント

浅生ハルミンさん(イラストレーター・エッセイスト)
「狩人の夜」(1955年)

怖さと美しさ 迫る映像

 浅生ハルミンさん(イラストレーター・エッセイスト)「狩人の夜」(1955年)

 

 モノクロの映像が本当に美しくて、怖いけれど見入ってしまう作品です。

 アメリカの田舎町に暮らす男が、銀行強盗で奪った1万ドルを幼い息子と娘に預けます。その後、男は死刑になりますが、男と牢獄で一緒だった、ロバート・ミッチャム扮するハリーという偽伝道師が、お金を狙ってやってくる。ハリーはハンサムで言葉が巧み。皆だまされ、子どもたちの母親は彼と結婚します。しかし殺されてしまう。兄妹は、川を小舟で下って逃げていきます。

 川下りの場面は童話のよう。夜、星がきらめいて、月明かりが照らす中を舟が行くと、川辺にいろんな植物や小さな動物が現れます。影絵や工作のようで、どこかたどたどしく、手づくりの魅力があります。でも、追いつめられる恐怖感がスリリング。しかも、男の子は自分だけハリーが悪人と見抜いていて、周りの大人は誰も味方にならない。悪夢ですよ。

 兄妹は、保護した孤児たちと生活する、厳しいけれど善良な女性、リリアン・ギッシュ演じるレイチェルの家にたどり着きます。追ってきたハリーが家の外に潜み、レイチェルが猟銃を持って窓際で見張る終盤の場面。そこでハリーが、「leaning(身をゆだねる)」と繰り返す一節がある、黒人霊歌を口ずさむ。すると、レイチェルも声を重ねるように歌うんです。2人とも、自分が正しいと強く思っている人物です。善と悪の両極ですが、私には、2人が表裏一体に見えました。

聞き手・小寺美保子

 

  監督=チャールズ・ロートン
   製作=米
   出演=ロバート・ミッチャム、シェリー・ウィンタース、リリアン・ギッシュほか
あさお・はるみん
 1966年生まれ。著書に「三時のわたし」など。自身のエッセー「私は猫ストーカー」が、2009年に映画化。
(2015年11月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)