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パリのブラッスリーで、ギャルソン(給仕)として働く男の平凡な人生を描いた作品です。パリのギャルソンはかつて、担当するテーブルの客からのチップで生計を立てていました。見ると、人気ギャルソンだった友人を思い出します。
イブ・モンタン演じる主人公は、海辺にささやかな遊園地を造ることを夢見て日々励んでいる。交際しているのかいないのか、わからないような女性が次々出てきて、結局何の進展もないのが、いかにもフランス映画らしい。フランス人がよく言う決まり文句に「セラビ(それが人生さ)」という言葉があるけど、まさしくそういう映画だよね。モンタンのさりげない演技のうまさも出ています。
僕にとって、学生時代に留学していたパリは、第二の故郷。1968年に5月革命が起こり、授業がないので、6区のオデオン座付近のカフェを一日中うろついていました。会話に夢中な客に、ギュウギュウ詰めの店内の喧噪(けんそう)。この映画は、パリ特有の飲食店の世界をよく描写しています。特に、厨房(ちゅうぼう)の「デシャップ」という料理を渡すカウンターに、ギャルソンたちが集まる場面。「俺の客の料理はまだか」と大声が飛び交うのは、実は芝居。チップをもらうために客に頑張っていることを知らせているんです。
僕は今、信州でレストランを経営しています。飲食業は映画で見た以上に大変だけど、人が楽しく食卓を囲んでいるのを眺めるのが好きで。いい場所を作ったなと思っています。
聞き手・曽根牧子
監督・共同脚本=クロード・ソーテ
製作=仏
出演=イブ・モンタン、ニコール・ガルシア、ジャック・ビルレほか たまむら・とよお
1945年生まれ。著書に「田園の快楽」「旅の流儀」など。長野県東御市でヴィラデストワイナリーを営む。画家としても活躍。 |