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片岡鶴太郎さん(俳優・画家)
「網走番外地」(1965年)

高倉健の研ぎ澄まされた存在感

 片岡鶴太郎さん(俳優・画家)<br>「網走番外地」(1965年)

 

 高倉健さんが逝かれて1年2カ月。追悼の思いを込めて肖像画を描かせていただきました。輪郭を鉛筆で描き、油絵の具は指で塗っています。自然と頭に浮かんだ緑や赤色を使いました。

 健さんと言えばやはり、代表作であるこの任俠(にんきょう)映画でしょう。やくざの世界に足を踏み入れた青年が、刑務所で集団脱走計画に巻き込まれるアクションドラマ。高校生の時に見ました。映画館の看板に描かれた「網走番外地」という文字がとにかく印象的でね。今、改めて見ると健さんが34歳という脂が乗った時期に大役に抜擢(ばってき)され、ひたむきに役に打ち込んでいたのがヒシヒシと伝わる。目を爛々(らんらん)とさせ、諸刃(もろは)の剣のような存在感を放っておられた。そんな健さん独特の世界を表現したかったのです。

 実は、健さんとは一度も仕事でご一緒したことはないんです。でもストイックな人柄を周囲から漏れ聞き、常に憧れの存在でした。自分の還暦記念の展覧会で、タモリさんや具志堅用高さんらお世話になった方々の肖像画を描きましてね。次は昭和の大スターを、と思っていた矢先に亡くなられてしまったんです。

 画業にのめり込んで20年経ちました。花や生き物など自然を描き続けてきたので、肖像画は珍しいんです。ですが僕は元々物まねタレント。人の特徴をつかむのが得意なのかもしれません。今は画業と俳優業と。仕事へのひたむきさは健さんにとても及びませんが、これからも走り続けたいですね。

聞き手・曽根牧子

 

  監督・脚色=石井輝男
   原作=伊藤一
   出演=高倉健、南原宏治、丹波哲郎、安部徹、嵐寛寿郎、田中邦衛ほか
かたおか・つるたろう
 1954年生まれ。ドラマ・映画などで活躍。1月16日~3月13日、茨城県筑西市のしもだて美術館で「片岡鶴太郎展 還暦紅」を開催。
(2016年1月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)