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上京して芸大に通っていた頃に名画座で見たかな。絵本や童話の世界に引かれていて美術展や映画館、洋書店をあちこち回っていました。
不思議な屋敷に迷い込んだ男が一夜を明かし、帰り際に末娘ベルの欲しがっていた庭のバラを手折る。主人の醜い野獣は「この世で命より大切な私のバラを」と怒り、娘を差し出せば命を助けてやると言う。ベルは自ら人質となり、屋敷で暮らすうちに野獣に心を寄せていく。
白馬に乗って野獣の元に向かうベルが頭からかぶっているマント。白黒映画で色はないけど赤色に感じ、童話「赤ずきんちゃん」をほうふつとさせる。屋敷に入ってからのスローモーションのシーンもにじんだ光と影が美しく幻想的です。
ベルに恋心を抱きながらも金銀財宝に目がくらむ美青年とバラを愛する野獣。あえて一人二役でジャン・マレーが演じているのは、人間の美と醜、お金とバラ、世俗的な価値と愛の対比なのか。監督のジャン・コクトーは詩人でもある。おとぎ話にかこつけて、いろんな思いを込め、見る者に謎をかけてくる。
学生時代、この映画や、同じくバラの花が登場する「星の王子さま」に出会いました。子どもはもちろんだけど、大人も楽しめるおとぎ話があるんだ、僕もこういう作品を作りたいな、と目を見開かされた。それが、賢治の童話や詩を「画本(えほん)宮澤賢治」として発表してきたライフワークにつながっているなあと、あらためて思います。
聞き手・井上優子
監督・脚本=ジャン・コクトー
製作=仏
出演=ジャン・マレー、ジョゼット・デイ、マルセル・アンドレほか こばやし・としや
1947年生まれ。「画本宮澤賢治」で第13回宮沢賢治賞。3月13日まで東京・根津の「りんごや」で藍染め作家と2人展。7日休み。 |