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牧野千穂さん(画家)
「ロスト・チルドレン」(1995年)

世紀末的な世界観が好き

 牧野千穂さん(画家)「ロスト・チルドレン」(1995年)

 

 約20年前の公開当時、長男の出産を控えた大きなお腹で夫と見に行きました。ノスタルジックで世紀末的な世界観が2人の好みに合っていたんだと思います。

 舞台はほの暗い港町。謎の一つ目族による子どもの誘拐が続く中、サーカスで働く怪力男ワンも弟をさらわれてしまいます。弟を助けに行く道中、孤児の泥棒集団を率いる少女ミエットと出会い、共に一つ目族のアジトへ乗り込むことに。

 少女の割に色気があって大人びたミエットや、大柄だけど根は純粋なワンなど、登場人物は皆どこか欠けていてアンバランス。その孤独な切なさと危うさに引かれました。アジトにいる敵もそう。ある科学者によって作られたクローン人間クランクは、夢を見られないという欠陥のせいで老化がおそろしく早い。彼を救うために一つ目族は子どもをさらい、夢を盗もうとしていたんです。

 ヒーローが引っ張っていく話はあまり好みではないです。脇役が好きですね。この作品だとノミの調教師。小心者でダメなやつだけど、意図せずワンたちを助ける場面があるんですよ。たまたまとった行動が誰かを救う、そういう世界の在り方も魅力の一つです。

 私の絵本「ゆきがふる」の中で、怪物のような生き物が赤っぽい服を着た少女を抱えているイラストは、きっとミエットとワンの影響でしょうね。今回改めて見直してみて、この映画から鮮烈な影響を受けていたことに自分でも驚きました。

聞き手・星亜里紗

 

  監督・共同脚本=ジャン・ピエール・ジュネ
   製作=仏
   出演=ロン・パールマン、ジュディット・ビッテほか
まきの・ちほ
 代表作に絵本「うきわねこ」(蜂飼耳作、ブロンズ新社)など。近著は怪談えほんシリーズ「くうきにんげん」(綾辻行人作、岩崎書店)。
(2016年4月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)