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18世紀のアルメニアの宮廷詩人、サヤト・ノヴァの詩世界を独特な視点や構図、煌(きら)びやかな色彩のイメージ映像で表現した映画、まさに目で見る詩です。雨にぬれた羊皮紙の書物を寺院の屋根に広げ乾かす幼年期の一場面。パントマイムで演じられる詩人と王妃の恋、屠(ほふ)られた羊の頭、色濃く感じられる民族の風習や宗教色にも強い興味を持ちました。
全編が監督パラジャーノフの偏執的ともいえる美意識に貫かれ、晩年の一場面は宗教画のようです。詩人が横たわるロウソクが置かれた床に放たれた、首のない鶏は映画への供物とも感じられました。映像の背後を流れるエキゾチックな民族音楽がもたらす陶酔感に浸りつつも、無限の解釈ができる映画です。
大学時代、友人に誘われて偶然に足を運んだ映画祭で初めて見たパラジャーノフの作品が「ざくろの色」でした。
全くの受け身にならざるを得ないほどの衝撃。印象的な赤の使い方には、気づかぬうちに影響を受けたことでしょう。豊穣(ほうじょう)のザクロと短剣が置かれた布が、その赤い汁で真っ赤に染まっていくシーンや様々な血の表現など、赤が感じさせる生と死の相反し合うイメージは強烈です。
短剣や十字架といった映画の象徴的なモチーフを基に、時の政府に弾圧を受け続けた監督自身の人生をこの絵に重ねました。白い衣装の足を貫く短剣は血を流さず、ただザクロの赤が布を染め上げるだけ。その心は傷つくことなく、限りなく自由なのです。
聞き手・石井久美子
監督・原案=セルゲイ・パラジャーノフ
製作=アルメニア
出演=ソフィコ・チアウレリほか まちだ・くみ
1970年生まれ。和紙に墨、顔料などを用いて制作。年内に東京・日本橋の西村画廊で個展を予定している。 |