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昭和初頭、瀬戸内海の小豆島を舞台にした悲しい反戦映画。小学校の分教場に赴任してきた女性教師、大石先生と12人の子供たちとの交流を描いています。
太平洋戦争が始まる前の平和だったある日、けがで長く休んでいた先生に会いたくなった子供たちは、親に内緒で一銭も持たず、遠い先生の家まで会いに行く。途中草履の鼻緒が切れて裸足になったり、道が分からず、おなかもすいて泣き出す子も。そこに先生の乗ったバスが通りかかり、出会えた時のうれしそうな顔といったら。一番印象的な場面です。
その後、先生の家でごちそうになり、浜辺で集合写真を撮ります。この日の出来事が、後につらい時代を生きる子供たちの心の支えになるんです。
修学旅行に向かう船の上で歌われた「浜辺の歌」という唱歌は、この映画で知りました。歌謡曲くらいしか知らなかった小学生の頃に初めて聞いて、自然の風景を歌った詞とメロディーの美しさに驚きました。歌だけでなく、作品の至る所に山や田畑、浜辺など、美しい風景が描かれています。
やがて戦争が始まり、子供たちの中には徴兵され、戦死してしまう子も出ます。悲しみの中、自然の力に気づかされました。これだけ不幸な話なのに、美しい風景が心を癒やしてくれるから、不思議と傷つかない。大石先生はとても立派で、人生を懸命に生きる人間の姿も素晴らしいです。この映画は日本の宝だと思います。
聞き手・永井美帆
監督=木下恵介
原作=壺井栄
出演=高峰秀子、月丘夢路、小林トシ子、井川邦子、田村高廣、笠智衆ほか 1962年生まれ。代表作に「あたしンち」「セキララ結婚生活」。近著にアニメコミック「アニメ新あたしンち 1」(KADOKAWA)。 |