|
1960年代のインドネシアで、数十万人の共産党関係者らが大虐殺された事件に関連するドキュメンタリーです。加害者だった人間にカメラを向け、当時の状況を演技で再現してもらっています。
生真面目に役作りをして殺人シーンに臨むなど、思わず苦笑するシーンもありますが、ある意味ホラーよりも怖い映画です。出演者の言動が演技なのか素なのか、疑いながら見ていました。
楽しそうに殺しを演じる殺人部隊のリーダー、アンワルや、当時の状況を「知らなかった」とうそぶく新聞記者の男。人間の暗部をのぞき見たようで気持ち悪くなりました。引いた視点で見ていたつもりが、途中からアンワルに自分を重ねてしまい、最後まで落ち着かなかった。
巨大な魚のオブジェの横でアンワルや女性たちが踊るエンドロール。背景の半分は晴れ、もう半分は雨が降っている。立ち位置で晴雨が善にも悪にもなるように、価値観なんて簡単にひっくり返ることの示唆なのかも? 自分や他人の心の暗闇に立ち入るような映画のイメージを、この場面に重ねて版画にしました。
インドネシアは、ジャワ島の伝統的な影絵芝居「ワヤン」の絵本に携わった縁で何度か訪れ、昨年は半年ほど滞在しました。活力にあふれ、人が魅力的な国。この映画を見て嫌な印象を持ってほしくはないけど、知らないまま通り過ぎる方が怖いことってある。人間についてぐるぐる考えたい人には、ぜひ見てほしい映画です。
聞き手・安達麻里子
監督=ジョシュア・オッペンハイマー
製作=デンマーク、ノルウェー、英
出演=アンワル・コンゴほか はやかわ・じゅんこ
1970年生まれ。代表作に「まよなかさん」など。絵本「十二支のおもちつき」(すとうあさえ作、童心社)が9月下旬発売予定。 |