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1950年代末のスウェーデンで、不器用な都会の少年イングマルが成長していく過程を描いています。50年生まれの僕にとって、12歳のイングマルは同じ時代を生きてきた友達みたいな感覚。劇中に出てくるサッカーW杯や地元のボクサー・ヨハンソンが歴史的勝利を収めた試合は、僕も記憶に刻まれています。
ある夏、母親の病気が悪化し、イングマルは愛犬シッカンと別れ、田舎の叔父の家で暮らすことになります。そんな自分の境遇を、人工衛星に乗せられて宇宙で死んでしまったライカ犬と比較し、「僕の方がマシだ」と慰める。泣いているような、笑っているような、感情の細かいヒダまで表現された表情が魅力的です。何度見ても毎回違って見える。そんな心の深い部分まで捉えたカメラワークも素晴らしいです。
少年のような風貌(ふうぼう)の美少女サガや妖艶(ようえん)な年上の女性ベリットなど、田舎での出会いと別れを通じて、生き生きと自分を取り戻していくイングマル。性への目覚めや思春期ならではのときめく瞬間には胸がうずきます。特にサガとボクシングごっこをする場面で、イングマルが犬みたいに「バウッバウッ」とほえ立てるところがいい。ちょっとした諍(いさか)いの後、悔しそうに唇をかんだり、和解してお互いに笑みを返したり。ここでも微細な感情の表現に引き込まれます。
イラストは映画に時折挿入される満天の星に、イングマルの表情を重ねてみました。
聞き手・永井美帆
監督=ラッセ・ハルストレム
製作=スウェーデン
出演=アントン・グランセリウス、メリンダ・キンナマンほか みなみ・くうくう
画文集「桃天使さん」、絵本「にこちゃん」など。10月1~15日、長野・まいまい堂で個展。吉祥寺でカレー店「まめ蔵」を営む。 |