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ニコラ・ビュフさん(芸術家)
「千と千尋の神隠し」(2001年)

油屋の表裏、描写が新鮮

 ニコラ・ビュフさん(芸術家)「千と千尋の神隠し」(2001年)

 

 少女千尋が両親と引っ越し先の家へ向かう途中、トンネルの先に広がる「不思議の町」に迷い込み奮闘する物語です。

 2002年、パリの美術学校エコール・デ・ボザールで自分のアートの方向性を模索している時、映画館で見ました。

 造形、音楽、すべてが素晴らしかった。そして何か演劇の舞台を見ているような感じがしました。例えば「油屋」。表面はレトロな雰囲気で豪華なのですが、裏に回ると無機質で現代の工場みたい。この表裏を描く感覚が新鮮でした。千尋を助けるハクとの出会いなど、重要な場面に登場するのが橋なのも印象的です。古来の日本で、橋は俗世と異界をつなぐ存在として表現されていましたが、それを意識しているのでしょうか。

 少年時代、フランスでは「名探偵ホームズ」や「Dr.スランプ アラレちゃん」など日本のアニメをたくさん放送していて、夢中で見ていました。当時、アニメは子ども向けでアートではないとされていた。この作品を見て僕は違うと思い、日本のポップカルチャーと自分の世界を融合させたいと考えました。中には見下す人もいましたが、落ち込んだ時には千尋の勇気を思い出して頑張りました。

 釜爺(かまじい)やリンが、よそ者の千尋の面倒を見る場面はとても日本らしいです。僕も07年に移住して以来、多くの人にお世話になりました。千尋が言っていた「よろしくおねがいします」という言葉は正確に仏訳できません。人情を大切にする国だと思います。

聞き手・西村和美

 

  監督=宮崎駿
  声の出演=柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦ほか
 1978年仏生まれ、東京在住。10月1日、京都市内で開かれる「ニュイ・ブランシュKYOTO」では、二条城二の丸御殿台所などで絵画などの展示を行う。
(2016年9月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)