|
外科医を演じる三船敏郎がとにかく格好よかった。私も同じ、外科医になりたいと思っていた高校生のころに地元愛知の小さな劇場で見た思い出の作品です。
戦時中、軍医として南方の戦地に赴いた主人公の藤崎。手術中のけがが原因で、梅毒にかかった兵士から自身も感染してしまう。終戦後は実家の病院で医師となり、周囲から「聖者」と慕われる一方で、長年の婚約者に病のことを告白できず、悩み苦しむ姿が描かれます。
三船は、黒澤明が一つ前に手がけた作品「酔いどれ天使」でのヤクザ役とは違い、きゃしゃで繊細な印象。演技には若さが見られ、他の作品と比べても少しイメージが異なります。演じるのに苦労したのではないでしょうか。
しかし、藤崎はなぜ婚約者に病気のことを伝えなかったのか。婚約者はなぜあっさり他の人に嫁いだのか。疑問が残る部分もあります。当時、梅毒は世間的にも怖い病気で、私も近所で発病した人を目にしていましたから。そんな背景から監督はこの映画を作ったのでしょう。
私は高校卒業後、肋膜(ろくまく)炎のため3年ほど療養することになり、医者への道は諦めました。人の命と向き合う大変な仕事。今となっては、ならなくてよかったかな、と思います。それにイラストの仕事で三船を描くことになるなんて、人生どうなるかわかりませんね。彼の繊細さが少しでも出せたでしょうか。顔を細長く誇張してみたのですが、少しやり過ぎました。
聞き手・渡辺鮎美
監督・共同脚本=黒澤明
原作=菊田一夫
出演=三船敏郎、三條美紀、志村喬、千石規子ほか すぎうら・はんも
1931年生まれ。絵本「まつげの海のひこうせん」や児童小説「ルドルフとイッパイアッテナ」の挿絵などを手がける。 |