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加藤秀之さん(イラストレーター)
「独裁者」(1940年)

チャプリンの笑いと戦争批判

 加藤秀之さん(イラストレーター)「独裁者」(1940年)

 

 祖父が映画監督の黒澤明、母は映画衣装も手がけるデザイナーという家庭で育ったので、幼い頃から映画は身近なものでした。夕食後に祖父の作品を見たり、家族で感想を話しあったりしました。これは、10代の頃から繰り返し見てきた作品です。

 第1次世界大戦末期、トメニア国の兵士だったユダヤ人の床屋が戦場で負傷し、記憶を失ってしまう。やがて床屋とそっくりの独裁者ヒンケルが現れ、国を支配。ユダヤ人の迫害を始め、世界制覇を企てる。チャプリンがヒンケルと床屋の二役をコミカルに演じ、戦争やヒトラーによる独裁政治を痛烈に批判しながらもユーモアがあります。

 収容所から脱走した床屋がヒンケルに間違われ、大群衆を前に平和や民主主義の尊さを演説するラストシーンはあまりに有名です。6分間にわたる演説は次第に熱を帯び、それまで笑いながら見ていたのに、最後にはチャプリンが込めた思いが胸に突き刺さります。当初は別のラストになる予定が、「独裁者への怒りが表現できない」と変更したそうです。

 チャプリンのように、重いテーマでもユーモアを交えることでたくさんの人の心に残る。僕もそんな絵を描けたらいいなと思っています。

 イラストは、僕の漫画に登場する猫のキャラクターが独裁者に扮し、演説しているところを描きました。「チョノナレ」とは「このヤロー」という意味の僕の造語です。

聞き手・永井美帆

 

  監督・脚本・出演=チャールズ・チャプリン
   製作=米
   出演=ポーレット・ゴダード、ジャック・オーキーほか
かとう・ひでゆき
 1978年生まれ。漫画と小説のアプリ「comico(コミコ)」などで4コマ漫画「国産黒毛和猫 黒丸」を配信中。
(2016年10月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)