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ゴシップ記事を書くマルチェロが美人女優と過ごす一夜、公爵家のパーティーなど、ローマの社交生活を描いています。退廃的でだらだらと進むようだけどピリッとしたシーンが効果的に挿入されています。不気味なお面をかぶったダンサーや、ナイトクラブで楽しんでいるところに化粧の落ちたような道化師が登場して、見ている人を突然何ともいえない嫌な気持ちにさせます。でも、僕には快感につながる刺激なんでしょうか。好きですね。
五十数年前に初めて見たとき、僕は20代でした。マルチェロ・マストロヤンニ演じるマルチェロに、自分を重ね合わせて見たシーンが一つだけあります。パーティーの終わったマルチェロたちが浜辺にいて、向こう岸にいる女の子が、ジェスチャーと共にマルチェロに何か話しかけますが、マルチェロはどうしても聞き取れない。結局あきらめて女の子に背を向け、皆と一緒に歩き出します。手の届かない美しさ、遠くの天使を見ているような気持ちでした。でも年を取った今は、なぜか少女の側に立って、彼らは行ってしまったと感じます。
監督のフェリーニは、物や人、特に群衆の配置がとてもうまいと思います。映画では主に画面の構図を見るので、そのうまさに感激してしまう。色彩やセリフなどではなく、構図で独特の空気感を生み出すんです。今も作画するとき、いろいろな場面の構図が頭のどこかにぶら下がってます。
聞き手・土田ゆかり
監督・共同脚本=フェデリコ・フェリーニ
製作=伊・仏
出演=マルチェロ・マストロヤンニ、アニタ・エクバーグほか ふかい・くに
虫プロ製作のアニメ「哀しみのベラドンナ」(1973年)の美術や遠藤周作の小説「王妃マリー・アントワネット」の挿絵などを手がける。 |