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諸星大二郎さん(漫画家)
「大いなる遺産」(1946年)

鮮烈な「ファム・ファタル」との出会い

 諸星大二郎さん(漫画家)「大いなる遺産」(1946年)

 

 僕が小学生の頃は家にテレビがなくて、近所の家に見に行ってました。ある日、「テレビで映画をやるよ」って誘われて行ったんです。翌日も翌々日も、同じように誘われて。でも実は、一つの映画を連日放映する番組だったので、3日連続で同じ映画を見せられたんです。それがこの映画。それで非常に印象に残っているんです。

 主人公の少年ピップに助けられた囚人が、恩返しで生前に巨額の財産を残す。ピップらはその囚人を国へ帰すために奮闘する、というそれなりに面白いストーリー。その中で特別に好きなのが、ピップが別世界のような金持ちのお屋敷に呼ばれて、ジーン・シモンズ演じる少女エステラと出会う場面。少女はいきなり頰をひっぱたいたり、「キスしてもいいわよ」と言ったりしてピップを振り回し、彼は「ツンデレ」な彼女のとりこになっていく。

 少女はファム・ファタル(運命の女)なんですよ。僕にとってこの映画は13歳ほどの少年がファム・ファタルに出会ってしまう、というお話。僕も出会えるものなら出会ってみたいし、いつかファム・ファタルを題材に漫画を描きたい。少女が成長してからは違う女優が演じるので、シモンズの出演場面は15分もない。でも木がうっそうと茂る庭に現れる彼女がとにかく美しく、鮮烈に印象に残っています。別にシモンズのファンという訳ではないんだけど、この映画の彼女は、特別なんですよ。

聞き手・安達麻里子

 

  監督=デビッド・リーン
   原作=チャールズ・ディケンズ
   製作=英
   出演=ジョン・ミルズ、バレリー・ホブソン、ジーン・シモンズほか
もろほし・だいじろう
 1949年生まれ。代表作に「西遊妖猿伝」など。月刊漫画誌「モーニング・ツー」(講談社)で連載中の「BOX 箱の中に何かいる」第1巻が発売中。
(2017年1月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)