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僕が小学生の頃は家にテレビがなくて、近所の家に見に行ってました。ある日、「テレビで映画をやるよ」って誘われて行ったんです。翌日も翌々日も、同じように誘われて。でも実は、一つの映画を連日放映する番組だったので、3日連続で同じ映画を見せられたんです。それがこの映画。それで非常に印象に残っているんです。
主人公の少年ピップに助けられた囚人が、恩返しで生前に巨額の財産を残す。ピップらはその囚人を国へ帰すために奮闘する、というそれなりに面白いストーリー。その中で特別に好きなのが、ピップが別世界のような金持ちのお屋敷に呼ばれて、ジーン・シモンズ演じる少女エステラと出会う場面。少女はいきなり頰をひっぱたいたり、「キスしてもいいわよ」と言ったりしてピップを振り回し、彼は「ツンデレ」な彼女のとりこになっていく。
少女はファム・ファタル(運命の女)なんですよ。僕にとってこの映画は13歳ほどの少年がファム・ファタルに出会ってしまう、というお話。僕も出会えるものなら出会ってみたいし、いつかファム・ファタルを題材に漫画を描きたい。少女が成長してからは違う女優が演じるので、シモンズの出演場面は15分もない。でも木がうっそうと茂る庭に現れる彼女がとにかく美しく、鮮烈に印象に残っています。別にシモンズのファンという訳ではないんだけど、この映画の彼女は、特別なんですよ。
聞き手・安達麻里子
監督=デビッド・リーン
原作=チャールズ・ディケンズ
製作=英 出演=ジョン・ミルズ、バレリー・ホブソン、ジーン・シモンズほか もろほし・だいじろう
1949年生まれ。代表作に「西遊妖猿伝」など。月刊漫画誌「モーニング・ツー」(講談社)で連載中の「BOX 箱の中に何かいる」第1巻が発売中。 |