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新宿ゴールデン街で監督の黒木和雄さんと飲んでいた時に、黒木さんの映画への情熱に引き込まれてしまい、初めて映画製作に関わった作品なんです。「本当の青春映画を作りたい」と、黒木さんが熱く語ったのを今でも覚えています。
最初の構想は現代劇だったと思いますが、曲折を経て幕末を生きた坂本竜馬の話になりました。黒木さんいわく、青春像をあぶり出すとしたら、竜馬とその周りの志士たちだと。
幕府側だけでなく倒幕派の一部にも狙われている竜馬が、京都で暗殺されるまでの最後の3日間に絞って描いています。冒頭、雨の中をブーツを履いて尻を出した竜馬が走っているんです。野性的で奔放で、女性にだらしなく、隠れ家で一人になると殺される恐怖におびえる。従来の英雄のようなイメージをぶちこわす、非常に人間くさい竜馬像でした。
ツテを頼って映画への出資を頼みに行った高知の旅館のおかみには「竜馬様をこんな汚い男に変えてる映画なんかにお金を出せるわけがない」と言われましたね。でも汚い竜馬で何が悪いねんと。青春という言葉は一見美しく思われがちですが、青春がきれいなはずがない。裏には薄汚さや残酷さ、格好悪さもある。
僕は撮影現場には一度も行かず、毎日製作費のための小銭集めをしていました。ツケのあるバーのおかみにまでお金を借りてね。内容うんぬんだけでなく、そういうことをひっくるめて心に残っています。
聞き手・牧野祥
監督=黒木和雄
脚本=清水邦夫、田辺泰志
出演=原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、松田優作、桃井かおりほか くろだ・せいたろう
1939年、大阪市生まれ。野坂昭如著「戦争童話集」の映像化や絵本化を手がけたほか、核兵器廃絶を訴える芸術活動に取り組む。 |