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伊藤桃子さん(イラストレーター)
「ストレイト・ストーリー」(1999年)

自力で進む姿に勇気もらう

伊藤桃子さん(イラストレーター)「ストレイト・ストーリー」(1999年)

 73歳のアルヴィンが、時速8キロのトラクターで約560キロ離れた兄の元に会いに行った実話を基にした物語です。特に派手な事件が起きるわけではなく、ゆっくりと進んでいく。そのスピードが心地良いんです。

 10年来疎遠になっている兄が倒れたと聞き、アルヴィンは「自力で会いに行く」と言い出します。足腰が弱っていて、自動車免許もない。どうするんだろうと思っていたら、家にあった芝刈り機で行こうと準備し始めるんですよ。出発後、すぐに故障して、中古のトラクターを買って出直します。もっと早く着く方法もあると思うけど、自分で選んだやり方に意味があるんだと思います。

 ロードムービーって旅の途中で主人公が変わっていく作品が多いけど、アルヴィンは一貫して変わらないんです。娘のローズや近所の人たちが反対しても、かたくなに自分の力で行こうとします。6週間の旅の途中、家出した妊娠5カ月の女性や双子の修理屋たちと出会います。彼らはアルヴィンと話し、少しずつ家族に対する気持ちが変わっていくんです。

 初めて見たのは20代の頃ですが「今の私」が見ると、父を心配する娘としての気持ちや、海外にいる姉への思いなど、感情移入することが増えました。私がイラストレーターを志したのは30代半ばと遅く、周りの人と比べて悩んだこともありました。そんな時、自分のペースとやり方で進んでいくアルヴィンに勇気をもらったんです。

聞き手・根津香菜子

 

  監督=デビッド・リンチ
   製作=米
   出演=リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセクほか
いとう・ももこ
 雑誌や広告などの挿絵を切り絵で表現する。10月13日~18日、東京・渋谷のペーターズギャラリーでグループ展を開催。
(2017年2月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)