73歳のアルヴィンが、時速8キロのトラクターで約560キロ離れた兄の元に会いに行った実話を基にした物語です。特に派手な事件が起きるわけではなく、ゆっくりと進んでいく。そのスピードが心地良いんです。
10年来疎遠になっている兄が倒れたと聞き、アルヴィンは「自力で会いに行く」と言い出します。足腰が弱っていて、自動車免許もない。どうするんだろうと思っていたら、家にあった芝刈り機で行こうと準備し始めるんですよ。出発後、すぐに故障して、中古のトラクターを買って出直します。もっと早く着く方法もあると思うけど、自分で選んだやり方に意味があるんだと思います。
ロードムービーって旅の途中で主人公が変わっていく作品が多いけど、アルヴィンは一貫して変わらないんです。娘のローズや近所の人たちが反対しても、かたくなに自分の力で行こうとします。6週間の旅の途中、家出した妊娠5カ月の女性や双子の修理屋たちと出会います。彼らはアルヴィンと話し、少しずつ家族に対する気持ちが変わっていくんです。
初めて見たのは20代の頃ですが「今の私」が見ると、父を心配する娘としての気持ちや、海外にいる姉への思いなど、感情移入することが増えました。私がイラストレーターを志したのは30代半ばと遅く、周りの人と比べて悩んだこともありました。そんな時、自分のペースとやり方で進んでいくアルヴィンに勇気をもらったんです。
聞き手・根津香菜子
監督=デビッド・リンチ
製作=米
出演=リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセクほか いとう・ももこ
雑誌や広告などの挿絵を切り絵で表現する。10月13日~18日、東京・渋谷のペーターズギャラリーでグループ展を開催。 |