舞台は1915年、ロサンゼルスの病院。主人公で映画スタントマンのロイは、撮影中の事故で半身不随になったうえ、恋人をスター俳優に奪われ自暴自棄になっていました。ともに入院中の少女と知り合い、彼女に自殺用の薬を持ってこさせようと作り話を聞かせることに。
映画は病院の現実とロイの創作の世界を行き来します。ロイが少女を操るために作り上げたのは、6人の勇者が活躍する愛と復讐(ふくしゅう)の物語。そこには、ロイ自身の心が反映されています。終盤までハラハラさせられっぱなしなのは、彼の絶望が深いから。作り話が悲劇的なクライマックスを迎えたそのとき、少女が物語の中に現れて助けに来るシーンがすごく好きです。その展開も、ロイの心に光が差したからこそ。「希望って誰かがもたらすものではなく、内から湧いてくるものなんだ」と気づかされました。
構想26年、撮影期間4年を費やした圧倒的な映像美は、監督の映画愛と執念すら感じさせます。創作部分はチェコやインドなど13もの世界遺産で撮影されたそうです。ほぼCG不使用なのが信じられないほど美しい。故・石岡瑛子さんが手掛けた衣装にもほれぼれします。
年数はおよびませんが、私もずっと温めていた15年来の物語を連載中です。当初は読み切りの予定が、話が膨らんでしまって。それもまた創作の醍醐味(だいごみ)かもしれませんね。光にも闇にも転じる、行き当たりばったりに続くロイたちのおとぎ話のように。
聞き手・星亜里紗
監督・共同脚本=ターセム
製作=インド・英・米
出演=リー・ペイス、カティンカ・アンタルーほか いわもと・なお
代表作に「町でうわさの天狗の子」「金の国 水の国」。月刊フラワーズ(小学館)で「マロニエ王国の七人の騎士」連載中。 |