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海老塚耕一さん(美術家)
「我輩はカモである」(1933年)

映画の枠超える 過激な笑い

海老塚耕一さん(美術家) 「我輩はカモである」(1933年)

 子どもの頃から喜劇が大好き。でもチャプリンや日本の笑いでは物足りなくて。笑いとはもっと過激なものじゃないかと思っていたんです。そんな高校生の時、喜劇役者のマルクス兄弟4人が出演しているこの映画について、詩人アンドレ・ブルトンが記した文章を読んで、後にビデオを取り寄せて初めて見ました。

 ヨーロッパの架空の国、フリードニア共和国と隣国シルベニアの戦争をテーマにしたコメディーです。フリードニアの宰相ファイアフライの動向を探るために、シルベニアがスパイのチコリーニとピンキーを送り込んでくる。この宰相がハチャメチャで、変な法律を作ったり、戦争で味方を撃ったりする。スパイもスパイらしくない。チコリーニは宰相の親友みたいに振る舞うし、ピンキーは葉巻や燕尾服(えんびふく)の裾など手当たり次第になんでもハサミで切っていく。

 笑いのために作られているから、物語はどんどん破綻(はたん)していく。いびつな映画。だけど、映画という枠組みから外れることで、広がりが生まれていて、それがこの作品の魅力ですね。

 この絵はチコリーニとピンキーがファイアフライと同じ寝間着を着て出会う、鏡の場面を描きました。2人は鏡が割れているのに気づかず、相対する。虚と実が入れ替わっているようでいて、どっちも虚でどっちも実。その二重性がおもしろい。僕も、絵画と彫刻を合わせて、その間のあいまいな次元を作品にしたいと思っています。

聞き手・石井久美子

 

  監督=レオ・マッケリー
  製作=米
  出演=グルーチョ・マルクス、ハーポ・マルクス、チコ・マルクスほか
えびづか・こういち
 1951年生まれ。4月29日~5月21日、横浜市中区のギャラリーfuでドローイング展。9月には銀座・養清堂画廊で版画展。
(2017年4月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)