初めて見たのは中学生の時です。1996年公開の岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」がヒットしていて、歌手を夢見て日本にやってきた違法労働者で娼婦(しょうふ)の役のChara(チャラ)が好きになりました。可愛くて、演じすぎないところがいい。その彼女が浅野忠信とともに主演したのがこの映画だと知って「死んでも見るぞ」と出身地の宮崎のレンタルビデオ店に駆け込んだんです。
とある理由で精神科病院に送られた主人公ココ。そこで出会ったツムジとサトルの3人で「世界の終わり」を見に行こうと、脱走して塀の上を歩いて探検する物語です。映画全体から監督の美意識が満ちあふれ、画面が魅力的に構成されています。道路に並んだ赤いバラを車が踏みつぶしていく冒頭も、ココがカラスからむしり取って身につけた黒い羽根が飛び散るラストも印象的です。
塀から落ちて血まみれのサトルがさまよう場面は、美しい音楽と映像で嫌な感じがしない。残酷な場面は見るだけで傷つくものですが、この映画は奇麗でそうならない。頭で理解しようとするよりも感覚で見る作品ですね。
私の美意識の根底にあって、芸術関係の仕事をしたいと思ったきっかけの映画です。若さ故か、10代の頃は世の中の暗い部分や汚さもちゃんと見ようと思っていました。当時だから、あんなに感銘を受けたんでしょうね。思春期に吸収したものは人生の礎になる気がします。
聞き手・大野紗弥佳
監督・脚本=岩井俊二
出演=Chara、浅野忠信、橋爪浩一ほか
はるな・れもん
1983年生まれ。自伝的コミックエッセー「ZUCCA×ZUCA」(講談社)でデビュー。著書に「タクマとハナコ」(文芸春秋)など。 |