読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
63プレゼント

永井郁子さん(絵本作家)
「千利休・本覚坊遺文」(1989年)

生死隣り合わせ、戦国の茶の湯

永井郁子さん(絵本作家) 「千利休・本覚坊遺文」(1989年)

 私は25年間、裏千家で茶道を学んできました。でも、この映画に出てくる茶の湯と現代の茶道は全く別物と感じました。戦国の茶の湯は、常日ごろ命のやりとりをしている武士が出陣の前にたしなむなど重い役割を果たしていたよう。今のように趣味や教養の世界ではなく、生と死が隣り合わせだったんです。

 千利休の弟子・本覚坊の目を通して、利休がなぜ自刃したのかを回想していきます。古田織部ら利休を囲む茶人たちの生き様、覚悟も描かれています。

 冒頭の霧がかった暗闇の中、本覚坊が「お師匠さまー」と利休を呼ぶシーンを描きました。これは、本覚坊が夢で見ている利休です。利休を追いかけようとする本覚坊に「もう帰りなさい、ここは常の道ではない」と言うんです。それは、利休の進む茶の道が厳しく、茶の道は人それぞれだということを伝えたかったと感じました。

 利休の孫・宗旦(そうたん)が、雪山で本覚坊のもとを訪れる場面も気に入っています。全体的にモノトーンで描かれていて、カラフルな私の作風とは違う世界が美しいと感じましたね。その表現からも当時の茶の湯の精神性の奥深さを感じ、茶の湯とはなにか、ますます謎が深まりました。

 本覚坊にも利休という師匠がいたように、私にも絵本と茶道の師匠がいる。おかげで、茶の魅力を子どもに伝えるファンタジー絵本「おしゃれさんの茶道はじめて物語」(全5巻 淡交社)を描くことができました。

聞き手・佐藤直子

 

  監督=熊井啓
  原作=井上靖
  出演=奥田瑛二、三船敏郎、萬屋錦之介、加藤剛、芦田伸介ほか
ながい・いくこ
 童話シリーズ「わかったさん」の刊行30周年を記念し、「わかったさんとおかしをつくろう!」全3巻(あかね書房)が9月に発売。
(2017年7月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)