ゴリラを愛する「ゴリラ業界」の人たちにとっては、いや~な映画なんですよ。ゴリラは馬鹿で獰猛(どうもう)で、女性の色香に迷ってボコボコ胸をたたく存在、そんな誤解を植え付けた映画とされている。
でも私は、心ひそかにコングを憎めない。美しいヒロインに恋して、いとしい人を守ろうと愚かなことを繰り返す。「美女と野獣」のように、普遍的で切ない愛の物語だと思っています。
怪獣映画を撮るために、スマトラ付近の孤島に出向いた一行が、巨大なゴリラ、キング・コングに出会うという物語です。大学生の頃、映画館でリバイバル上映されているのを見たのが最初かな。
金もうけのためニューヨークに連れて来られたコングが、エンパイアステートビルに登るシーンが印象的ですね。ヒロインを安全な場所にポッと置くコングの優しさに、キュンとします。私もニューヨークに行った際、ドキドキしながらエンパイアステートビルに登りました。
ゴリラが胸をたたくときって、実はグーじゃなくてパーなんです。本物のゴリラは、家族思いの穏やかな生き物。闘いの回避やコミュニケーションのためにドラミングすることも多いんですよ。
何度もリメイクされているので、やっぱり何かしら人の心をつかむ存在なんでしょうね。今年上映された最新版では、愚かな人間に対してコングがすごく賢く、神々しく描かれている。ゴリラが理解されつつあるんだな、とうれしくなりました。
聞き手・中村茉莉花
監督=メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シューザック
製作=米
出演=フェイ・レイ、ブルース・キャボットほか あべ・ちさと
1957年生まれ。世界各地のジャングルや動物園を巡り、ゴリラを描く。著書に「ゴリラを訪ねて三千里」「ゴリラを描きたくて」など。 |