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松田奈緒子さん(漫画家)
「シェルブールの雨傘」(1964年)

心の動きを色彩で表現

松田奈緒子さん(漫画家)「シェルブールの雨傘」(1964年)

 小学生の頃にテレビで初めて見た時は、悲恋もののミュージカルだな、ぐらいの感想でした。その後、大人になって映画館で見直したら、椅子から立てなくなるぐらい泣いてしまったんです。

 1950年代後半のフランスが舞台です。雨傘屋の娘ジュヌビエーブは、自動車修理工場に勤めるギイと愛し合っていました。しかしある日、ギイに軍隊の召集令状が来ます。

 ジュヌビエーブの服とリボンの色が、彼女の気持ちを表して変化します。ギイと会っていた時は、ピンクなどの明るい色。彼が徴兵され、おなかに彼の赤ちゃんがいると分かって不安な頃から寒色系になります。彼を待てずに宝石商と結婚して数年後の再会シーンでは、白い雪が降る中で黒の服に身を包み、喪をイメージさせます。それに気付いたとき、国家の残酷さで彼女は虹色の世界を手に入れられなかったんだなと分かり、涙があふれました。と同時に、砂糖菓子みたいな美しい世界の中に、重い物語を込めた監督のすごさに圧倒されました。

 大人になってそう読み取れるようになったのは、映画評論家の淀川長治さんの存在が大きいです。小さい頃、テレビの映画番組で解説をされていて、さりげなく見方を教えてくれました。映画には、言葉で表現しないメッセージが隠されていて、より思い出深くしてくれます。映画と漫画は色々な要素で近いんですよ。映画の手法は、作品作りの基礎にもなっています。

聞き手・西村和美

 

  監督・脚本=ジャック・ドゥミ
  製作=仏
  出演=カトリーヌ・ドヌーブ、ニーノ・カステルヌオーボほか
まつだ・なおこ 漫画家
 1969年長崎県生まれ。「重版出来(しゅったい)!」(小学館)はドラマ化され、2017年の小学館漫画賞を受賞。
(2017年8月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)