お話は1941年、独軍による爆撃を受けた旧ユーゴスラビアのベオグラードから始まります。反ナチス活動家のマルコは仲間に引き込んだ電気工のクロや家族、近隣住民を地下に避難させますが、第2次大戦終結後も戦時中だとだまして地下で武器を密造させ続ける。激動と混沌(こんとん)の50年をしたたかに生きた2人の男を軸に物語が展開していきます。
私は子どもの頃、住んでいた北海道小樽市で、石狩湾の先に見える街をソ連だと思い込んでいたんです。その思い出もあり、人は限られた情報の中で価値観を植え付けられたら信じてしまうというのが、連載中の漫画「ランド」の発想の始まりでした。構想を練っていた4年前、編集者がこの映画のDVDをくれたんです。同じコンセプトの物語に、「これで行くぞ!」と勢いづきました。
映画で地下生活をする彼らはそれなりに楽しくやっていて、決して悲劇だけの物語ではない。花嫁が宙に浮かぶ演出や牛たちが川を渡る場面など、どのシーンもいいんですよ。マルコとクロの間で揺れる女優ナタリアが着ているドレスの赤も画面に映えて印象的です。
リズムと笑いと狂気がちりばめられ、一見雑多な映画ですが、クストリッツァ監督が一貫して筋をピシッと通している。鑑賞後に漠然と抱いたイメージが、「苦痛と悲しみと喜びなしに伝えられない」という登場人物のせりふと重なりました。監督の祖国ユーゴスラビアへの思いです。
聞き手・井上優子
監督・共同脚本=エミール・クストリッツァ
製作=仏・独ほか
出演=ミキ・マノイロビッチ、ラザル・リストフスキーほか やました・かずみ
代表作に「天才 柳沢教授の生活」「不思議な少年」。週刊誌「モーニング」(いずれも講談社)で「ランド」を毎月1回連載中。 |
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