パリとボルドー間を走る中年のトラック運転手ジャンと、その道中のドライブインで働く若い女クロチルドのつかの間の恋の話です。見たのは18歳の頃。大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)を受けたと思う映画ですね。
ジャンには妻子がいます。でもぎすぎすした家庭で、疲れて帰っても誰もいたわってくれない。そんなときにクロチルドに出会って関係をもちます。2人で一緒に暮らそうとしますが、堕胎がもとで彼女は死んでしまうんです。ストーリーは三文小説のようですが、ジャンを演じたギャバンの哀感のある演技や、もの悲しい結末が心に残りました。
それまで見ていた映画は、笑いがあったり、社会問題を扱っていたり、活劇だったり。ドラマには山場がありました。でもこの映画にはそういうものがない。庶民の日常の悲喜を淡々と描いて、こんな味わい深い映画にできるんだということにも驚きましたね。原題の「DES GENS SANS IMPORTANCE」は、「しがない人々」といった意味だと思います。パリの下町の情景や、真っ暗な国道のシーンも印象深かったですね。国道はパリにとって「動脈」。そこに黙々と働いている人たちがいて、大都市が成り立っているんですよね。
イラストは希望に向かって車を走らせているジャンの頭の中をイメージしました。今の自分だけでなく若かりし頃の自分もいて、満天の星を見上げているのがクロチルドです。
聞き手・牧野祥
監督・共同脚本=アンリ・ベルヌイユ
製作=仏
出演=ジャン・ギャバン、フランソワーズ・アルヌールほか
いけうち・おさむ
1940年生まれ。エッセーなども執筆する。近著に「闘う文豪とナチス・ドイツ トーマス・マンの亡命日記」(中公新書)ほか。 |