台詞(せりふ)のない、「映画詩」のような作品です。舞台は親子4人、自給自足で暮らす現代の瀬戸内海の小さな島。そこは電気もガスもなく、なにより人間が生きるために一番必要な水がないのです。
夫婦は、朝早くから対岸の島へ伝馬(てんま)船をこいで向かい、桶(おけ)に水をくみ、てんびん棒で担いで島に運ぶ。その水で作物に水をやり、風呂や食事に使う。毎日の労働と生きることが直結している、生きることそのものがテーマです。淡々とした日常が、同じ旋律を繰り返す音楽を背景に、モノクロの映像で描かれます。
劇的な場面はほとんどないんです。ただ、水を運ぶ途中、妻が過って大切な水をこぼした時、夫が頰をたたいてパシンと音がする場面は印象的です。長男を亡くした後、いつもと同じように畑仕事をする妻が、突然桶の水をひっくり返して、育てた作物を引き抜いて号泣する。その時、夫は手を上げず、だまって見ている。すべてを映像で表現していて、言葉以上の悲しみが伝わってきました。
映画では、労働から生まれるものは麦や野菜でしたが、私の場合は作品という果実。そこに命という水を注ぎたいと思っています。映画を見たのは50年以上前ですが、舟や植物の種子など、私の作品のモチーフと接点があり、驚きました。
この絵は、鳥の目で見た島の姿です。島と舟には、この島で生きることの象徴として麦の種子を貼り付け、モノクロの画面から感じた、青々とした海の色を表現しました。
聞き手・石井久美子
監督・脚本=新藤兼人
音楽=林光
出演=乙羽信子、殿山泰司、田中伸二、堀本正紀ほか
かわぐち・たつお
1940年生まれ。3月26日~4月20日、東京都港区の横田茂ギャラリーで個展を開催。秋には、富山県・黒部市美術館でも予定。 |