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パルコキノシタさん(現代美術家)
「座頭市」(1989年)

人々に寄り添う庶民のヒーロー

パルコキノシタさん(現代美術家)「座頭市」(1989年)

 4歳の僕が、居合斬りの達人、座頭市をまねる写真が残っています。ヒーローは、デブで猫背で、がに股。イケメンじゃないけれど、強い。これまで何度も映画化されているけれど、勝新太郎が監督、主演しているこの作品が好きです。

 「市つぁん」こと座頭市は、ひとたび悪人に出くわすと、最強の戦闘マシンに変貌(へんぼう)。何者かがカチャッと刀を抜く音を聞いた瞬間、数秒で何人も斬り殺す。

 牢で陰湿ないじめに遭い、床にひっくり返されたみそ汁をすするという場面が印象的ですね。それでも自分が盲目だからではなく、国をつかさどるはずの役人が不正を働く世の中こそ、真っ暗闇なのだと描く。そこに、勝新の最高の皮肉がきいている。口癖は「嫌な渡世だなあ」。目が見える人だって、お先真っ暗じゃないかというメッセージだと思う。

 ハンディを背負い、社会の裏街道を生きる座頭市。だから、子どもやお年寄りに寄り添える。過去のテレビシリーズに、座頭市が親しい老渡世人を過って斬ってしまい、老渡世人は「落ち葉は風を恨まねえよ」と言って死ぬ場面がある。本作にも、風で落ちた鳥の卵を拾った後、同じ名ゼリフが登場。卵を大事に温めるその姿に心の優しさを感じますね。

 東日本大震災で傷ついた人々に寄り添いたいと感じたのは、この生きざまに感化されていたから。それで、仙台に移住した今の僕がある。まさに庶民の味方。市つぁんのような人が、今の社会に必要だと思うのです。

聞き手・石井広子

 

  監督・脚本・出演=勝新太郎
  出演=樋口可南子、陣内孝則、片岡鶴太郎、奥村雄大ほか
宮城県石巻市の東日本大震災犠牲者と同数の木像を制作中。3月10日から東京・新宿で開催の「未来へ『伝えるアートプロジェクト』」展に参加。
(2018年2月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)