出版社の社員である主人公の馬締(まじめ)をはじめ、新しい国語辞書を作ることに、全力を注ぐ人たちのお話です。
物語のはじまりが1995年。まだ出版不況ではなかったころです。辞書編集部の雑然とした感じや、手巻きの柱時計がかかる馬締のアパート、大家のおばあちゃんの部屋のレトロ具合とか、そこだけ時間が止まったような映画美術も興味深いですね。天然記念物的な昔の研究者タイプの馬締が、板前見習いの香具矢(かぐや)さんに一目ぼれしたり、辞書制作が途中で中断しそうになったりする以外に、たいした事件は起きないのですが、ある意味、マニアックな世界が面白いんです。
今はインターネットの情報検索で間に合ってしまう人も多いでしょうが、紙媒体の辞書を作る人の大変さ。収録語24万という数が想像を絶します。「用例採集」といって、まちなかで昆虫採集のように新語を集めるのですが、かなりお年の監修の先生が、合コンに出てみたり、飲食店で馬締と女子高生の会話に耳をそばだてたりしていましたね。
絵は、馬締と編集部の人たちが、香具矢さんの店に飲みに来ているところです。僕が長年作品に描いている二足歩行の「マオ猫」風に、編集部の人たちを犬と猫で描いてみました。地道な編集作業を十数年本気で続けて、最後に辞書を完成させる。彼らを見ていると、こういう幸せ感も世の中にあるんだなと、ちょっと夢を抱かせてくれます。
聞き手・清水真穂実
監督=石井裕也
原作=三浦しをん
出演=松田龍平、宮﨑あおい、黒木華、オダギリジョー、小林薫、加藤剛ほか
やまぐち・まお
著書に「ねこでんしゃ」、作家川上弘美さんとの共著「椰子・椰子」など。4月28日から東京都調布市の市文化会館たづくりで個展。 |