28歳で電通を辞めてフリーランスになってすぐの頃、大手化粧品会社の口紅やファンデーションのパッケージデザインを任されました。そのデザインの発想元になったのが、この映画。僕にとって革命的な仕事になりました。
徹底された情報管理社会を風刺した近未来映画。役人がたたき落としたハエがコンピューターの誤作動を生み、テロリストと善良な市民を取り違えて逮捕してしまうところから物語は展開します。
情報省記録局員・サムの現実と夢の交錯。世の中の仕組みを象徴するように壁の中を張り巡るボイラーのダクト。痛烈な英国的風刺が満載で、このシーンはどういうこと?と考えていると、ストーリーから置いてけぼりにされます。僕は公開時に映画館で見ましたが、見終えてからもずっと頭の整理がつかなかった。「何だったんだ、あの世界は!」って。イラストでは、そんな映画のイメージを、当時デザインした楕円(だえん)形の口紅のフォルムとともに、感覚的に表現しました。
デザイン界ではよく、分かりやすさを求められることがありますが、実は分からないものから私たちはどれだけ影響を受けているのかって思いますね。この映画は、僕を普段と全く違う場所へ連れて行き、それまで発想もできなかったものが発想できるようになるという体験を導いてくれました。自分の発想は無限にどこへでもいけるぞ、という手応えを得て、ワクワクしたのを今でも覚えています。
聞き手・渡辺香
監督=テリー・ギリアム
製作=英
出演=ジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロ、キム・グライストほか
さとう・たく
デザイン事務所 TSDO代表。21_21 DESIGN SIGHT館長。「全国高校野球選手権大会」のシンボルマークを手がける。 |