主役の寅さんってのは風来坊のテキ屋で、全国を旅しては女性に出会って恋をしたり、世話を焼いたりする。そんな寅さんにとってのマドンナの中でも、浅丘ルリ子演じるリリーは、シリーズに4本も登場するんですよ。
この映画はそのリリーの登場2回目。初めに寅さんは青森でサラリーマンの悲哀を絵に描いたような男と出会う。それから函館の屋台でリリーと偶然再会します。歌手として日本中を回る、さながら女版・寅さんのようなリリーの「動ける」キャラクター設定が生きている。さらには、小樽でリリーと寅さんはケンカ別れをするんだけど、リリーが色っぽさと同時に、寅さんと張り合えるほどの強さを持っているから、売り言葉に買い言葉でケンカが成り立つんですよね。あとね、寅さんが柴又で子どもたちとチャンバラごっこしているシーンがあるけど、寅さんが体を伸ばして動き出すとそれだけでギャグになるんです。この絵もそんな「動ける」2人を描きました。
1970年前後、僕はニューヨークで一コマ漫画を描いては現地の雑誌に投稿して、それを当時面識もなかった山田洋次監督に送ってたんです。監督の描くユーモアに一方的に共感してね。僕が漫画で笑いを表現したいと思った根底には、監督と同じように旧満州で終戦を迎え、命からがら日本に帰ってきた記憶がある。やっぱりどんな時でも大切なのは、この映画にあるような家族と笑いだよね。
聞き手・井上優子
監督・原作・共同脚本=山田洋次
出演=渥美清、倍賞千恵子、浅丘ルリ子、船越英二、下條正巳、三崎千恵子、前田吟ほか
もりた・けんじ
代表作に「丸出だめ夫」。4月27日まで、東京・新宿の日本漫画協会ギャラリーで開催する「鮎沢まこと氏を偲ぶ回顧展」に出品。 |