「山と海、どちらが好きか」って聞かれたら、「海」ですね。季節は、寒いより、暑い方が好き。一年中暑いタイのバンコクにアトリエを構えて15年暮らしたほどの「南志向」です。「海辺のポーリーヌ」の舞台も、フランス・ノルマンディー地方の夏の海辺。15歳の少女ポーリーヌと、年長のいとこマリオンが、休暇を海辺の別荘で過ごす。そこで出会った男性たちとの恋を描いています。
最も僕の目に焼き付いているのは、別荘の門が映し出されるシーン。オープニングでは、ポーリーヌとマリオンが別荘に着いて門を開け、新しい世界へ入っていく。多少の恋のいざこざはあるけれど、2人の状況はそれほど変わらず時が過ぎ、エンディングでは門を閉めて日常へ戻っていく。最初と最後で「門」が意識的に使われています。
光の微妙な変化を取り入れる演出もいいですね。序盤はあまり感じない日差しの印象が、話が進むにつれて強くなっていく。僕の作品にとっても光は重要なテーマ。最近は、早朝や夕方のやわらかな日の光にひかれます。
画家である僕の仕事は、自分が納得できる形になるまで描き続けることの繰り返し。それでも答えは分からないから、今でも描き続けている。ポーリーヌたちは、昼は海に行き、夜は皆で語り合う日々を繰り返します。価値観はそれぞれ違うので、語り合っても答えが出るわけではないんですが。分からないからこそ、話をするんです。
聞き手・笹木菜々子
監督・脚本=エリック・ロメール
製作=仏
出演=アマンダ・ラングレ、アリエル・ドンバールほか
こばやし・たかのぶ
具象的な絵画を描く。武蔵野美大油絵学科の特任教授。著書に「ふつうの暮らし、あたりまえの絵」(求龍堂)など。 |