長崎から上京した横道世之介と大学生活1年目に出会う人々のエピソードが描かれている。でも、「ただの青春映画か」なんて敬遠せずに見て欲しい。
映画は、バブル期の1987年の「現在」が進行し、時折その十数年後の「未来」の場面が挿入される。たとえば、現在の世之介がガールフレンドの祥子ちゃんと大笑いして、大きなハンバーガーをほお張る。その後、未来で大人になった祥子ちゃんが、世之介を思い出しながら、同じしぐさでパンにステーキを挟んで笑っている。未来のラジオニュースで、世之介の職業がカメラマンだと分かる。一方、現在では、アパートの隣人から借り受け、初めてカメラを手にした世之介が、他者から影響を受けた様が映し出される。
中盤知らされる、世之介の悲しい未来から先は名場面の連打。未来から見た過去である世之介の現在。その構造が時間軸というものを揺さぶってくる。人は自身のみならず、触れ合う他者の中に過去、現在、未来の順序もなく同時に生きていることを伝えてくれる。人は生まれ、人と出会い、互いの何かを受け取って、死んでいく。そんな影響し合うという死生観に泣き笑いしました。
俺ずっと、人や本に影響受けることが格好悪いと思っていたのに、この映画見て、それが素敵だなって気づいたんですよ。それからは人と会うのが楽しくて楽しくて。俺の生き方を変えてくれた生涯ベストの映画です。
聞き手・井上優子
監督=沖田修一
脚本=沖田、前田司郎
原作=吉田修一
出演=高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、伊藤歩、余貴美子ほか
あらい・ひでき
代表作「宮本から君へ」の実写版ドラマがテレビ東京系列で放送中。「愛しのアイリーン」が実写映画化され、今秋公開(吉田恵輔監督)。 |