平坦(へいたん)な日常の中に、いつもと違うことがふと起こるお話が好きです。リアリティーの中に生まれるワクワク感。私の絵本制作にも通じる部分です。
この映画はインドの大都市ムンバイが舞台。ムンバイではお昼時になると、各家庭や食堂からオフィスへお弁当を届けるサービスがあるんです。ある日、若い主婦イラが夫の愛情を取り戻そうと、腕によりをかけて作ったお弁当が、早期退職間近の男やもめサージャンに届いてしまう。それをきっかけに、孤独な2人はお弁当箱を介して文通を始めます。
全体を通してすごく優しい映画。誰かのために一生懸命料理を作るとか、一緒に食事をするとか、小さなことなんだけど温かい気持ちにさせてくれる。インド映画って、歌や踊りのイメージでしたが、市井の人々の日常を静かに描いた作品もあるんだなあと驚きましたね。
寂しげなサージャンにもひかれました。ベランダでたばこを吸いながら向かいの家の家族だんらんを窓越しに眺める場面は象徴的。言葉はなくても、映されている以上の暮らしぶりや心の内を想像できる。私も明かりがともる家々の窓をよく眺めます。窓枠で切り取られた生活にいとおしさを感じ、絵本「よるのかえりみち」では様々な窓を描きました。
初めて見たのはインドへ向かう飛行機の中。インドが好きで、ここ数年で4回訪れました。この映画を見る度に、旅の高揚感や思い出もよみがえってきます。
聞き手・牧野祥
監督・脚本=リテーシュ・バトラ
製作=インド・仏・独
出演=イルファーン・カーン、ニムラト・カウルほか
1982年生まれ。2012年「もりのおくのおちゃかいへ」で日本絵本賞大賞受賞。ほかに「たいふうがくる」など。11月に旅をテーマにした絵本を刊行予定。
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