物語の主人公、11歳の男の子ビリーがとても魅力的です。明るく純真、感受性が強くて、生命力に満ちている。バレエダンサーに憧れ、その道を一心に進む姿を見ていて、幸せな気持ちになります。
ビリーが暮らすのは、イギリスの炭鉱町。労働者のストライキが暗い影を落としています。その中でビリーは、ふとしたきっかけでバレエの魅力に目覚めるのです。炭鉱労働者の父親はビリーにボクシングを習わせますが、ビリーのバレエへの熱意や才能に心を揺さぶられたのでしょう。バレエ学校の進学費用を捻出するため、「スト破り」を決意します。兄や祖母、バレエ教室の先生も、ビリーへの愛情たっぷり。愛情とは、抱きしめたり優しい言葉を掛けたりするだけではない。子どもを一人の人間として尊重して見守るのも、一つの形です。
バレエ学校受験の場面が印象的でした。踊っている時の気持ちを面接官に問われたビリーは「いい気分。何もかも忘れて、全てが消える」と答えます。周りから託された希望や日々の苦労を全て受け止め、どこまでも飛んでいきそうなイメージが湧きました。
この映画は、単なるサクセスストーリーではありません。さまざまな愛情を取り込んで、子どもが育っていく。そんな人間の営みは素晴らしい。僕も佐賀県の炭鉱町に育ち、懸命に生きる人々を見てきました。美しい生き方をしている人たちを、絵に描きたくなります。
聞き手・木谷恵吏
監督=スティーヴン・ダルドリー
製作=英
出演=ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ゲアリー・ルイスほか
なかしま・きよし
1943年生まれ。女性や子どもを主に描き、NHK「みんなのうた」のイメージ画や「源氏物語54帖」などを手がける。 |