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なきぼくろさん(漫画家)
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)

株屋の狂おしいまでの人間味

なきぼくろさん(漫画家)「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(2013年)

 掌中のペンに落ちる光と影。この絵は物語の主人公で、26歳という若さで年収49億円を稼いだ実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの栄光と挫折の人生を投影しています。

 映画は彼の実録ドラマ。金への欲望と野心を抱え、世界金融の中枢である米ウォール街に飛び込みますが、ブラックマンデーで失業。再就職先で1ドルに満たないペニー(クズ)株を巧みな話術で売りさばき、トップセールスマンへと駆け上がります。自社を設立して巨額の富と名声を得ると、ドラッグや女、酒に溺れる日々。ただ絶頂は長くは続かない――。

 「生臭さ」にやられましたね。下品で汚い言葉、誇張された喜怒哀楽の表現、赤裸々な欲への描写などが、僕の原風景にある「浪花っぽさ」と重なり、心をつかまれました。印象的だったのが、ジョーダンが「このペンを俺に売れ」と、麻薬売人の元締を介して仲間に物の売り方を説くシーン。元締は機能や性能の良さを語るのではなく、ペンを隠して「そのナプキンに名前を書け」と言うんです。「ペンは?」と求めると「これが需要と供給だ」って。漫画家も同じで、読者に読む必要性を作り出すことが大切なんだと感じさせられました。

 僕は、自身の経験から「強い者には理由がある」ってことを漫画で伝えたい。強さは弱さを越えた先にあって、醜さや泥臭さ、かっこ悪さをはらむもの。だから、ジョーダンの人間臭さまでもが美しく思えたんです。

聞き手・井本久美

 

  監督=マーティン・スコセッシ
  原作=ジョーダン・ベルフォート
  製作=米
  出演=レオナルド・ディカプリオほか
 大阪府出身。PL学園で全国高校野球選手権大会に出場。野球漫画「バトルスタディーズ」をモーニング(講談社)で連載中。最新刊の15巻は7月23日発売。
(2018年7月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)