20代の頃は1日に4本見た日もあるほど、映画はジャンルを問わず好きです。これはその頃、1986年の日本公開時に劇場で見た作品。独特の空気感が印象的で、今回ふっと頭に浮かびました。
1900年のオーストラリアが舞台。女子寄宿学校の生徒と教師たちが、聖バレンタインデーに岩山へピクニックに行き、そこで生徒3人と女性教師がこつぜんと姿を消してしまう。謎めいた失踪事件が幻想的に表現されています。
花を浮かべた洗面器で顔を洗ったり、ピクニック先でハート形のケーキを切ったり。少女の世界を可愛いなと思いつつ、すべてがゆらゆらしたかげろうの中にあるような怖さを感じました。白い服の少女たちが、森の中で思い思いに寝そべったり読書をしたりするシーンは童話の世界や絵のようで、すごく好きなんだけど、この世でないような不気味さもある。冒頭のエドガー・アラン・ポーの詩を思わせる「見えるものも 私たちの姿も ただの夢 夢の中の夢」という言葉が映画全体を象徴している気がします。
思わせぶりなセリフや隠喩ともとれる場面がいろいろあるんだけど、結局すべてがはっきりわからない。そういう想像させられるところにも心ひかれました。
私の仕事は言葉にならないものを言葉で表現すること。伝えたいことは書いた言葉ではなく、その言葉を読んだときに広がるイメージ。そういう意味では、この映画と共通する部分があると思いました。
聞き手・牧野祥
監督=ピーター・ウィアー
原作=ジョーン・リンジー
製作=豪
出演=レイチェル・ロバーツ、アン・ランバートほか
ぎんいろ・なつを
近著に、エッセー「空へブーンと。 つれづれノート33」(角川文庫)、詩集「まっすぐ前 そして遠くにあるもの」(幻冬舎文庫)。 |