エレキギターをやっていた大学3年の頃。おしゃれな音楽に渇望していた僕に、先輩がこの映画を勧めてくれたんです。「ダバダバダ」のスキャットで有名ですが、劇中のボサノバが心地よくて。
大人の男女の純愛映画です。舞台はフランス。それぞれの子どもを寄宿学校に預けている2人が、週末に迎えに通う中で出会います。女性は映画の記録係で、スタントマンの夫を事故で亡くしている。男性はレーサーで、妻と死別。やがて2人は結ばれるが……という話です。
大人の会話がおしゃれで、レストランでの注文の最後に、男性が「(あと)部屋を頼む」と。これすごいなと。大人の恋のメルヘンだなと思いましたね。
カラーの間にモノトーンの場面が挟まれますが、その車のシーンが特に好きです。モナコでのラリーを終えた彼は、最初に何を言おう、どう振る舞おう、とつぶやきながら彼女の元に急ぎます。その純情さに、ものすごく共感しましてね。彼女を助手席に乗せた時にも、すぐそこに彼女の手があるのに、うぶで一生懸命で。男と女には距離があるんです。手と手の距離、亡き夫を忘れられない彼女の心の距離、モナコとフランスの距離。突き詰めると「距離の話」かなと。
会社員時代、漫画家の園山俊二さんに自分の漫画を見せに行くと、「わたせ君ね、男と女を描きなさい」と。それで今でも男女のロマンスを描いています。なんだかずっと、この映画と通じているように感じます。
聞き手・中村さやか
監督=クロード・ルルーシュ
製作=仏
出演=アヌーク・エーメ、ジャンルイ・トランティニャン、ピエール・バルーほか
1945年生まれ。代表作に「ハートカクテル」「菜」。9月8日~25日にイクスピアリ(千葉県浦安市)、10月3日~31日に代官山 蔦屋書店(東京都渋谷区)で個展。
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