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ヤマシタトモコさん(漫画家)
「ベイビー・ドライバー」(2017年)

肌に迫る キャラ全員の表情

ヤマシタトモコさん(漫画家)「ベイビー・ドライバー」(2017年)

 持病の耳鳴りを消すためイヤホンで音楽を聴く青年ベイビーが、強盗の逃がし屋ドライバーとして活躍するクライムアクション。彼はウェートレスのデボラと出会い、仕事を辞めようとするが失敗する。使い古された設定と展開なのに、抜群に面白いのが意外な作品でした。

 一番好きなのはオープニング。携帯デジタルプレーヤーに入った音楽にのるベイビーが、天才的なドライビングセンスで、激しいカーチェイスを繰り広げます。動画サイトで公開していた冒頭の6分を見て、絶対面白いと確信しました。

 監督のエドガー・ライトが好きで、倫理観というか、人間を見る目が信頼できる。平凡な人も、根っからの悪いヤツも、どちらにも生い立ちがあることを想像させる描写を、ちらっと見せる表情や言葉遣い、小道具にちりばめています。分かりやすくキャラ作りされた人物をきちんと多面的に描いていて、キャラクター全員の表情が「生っぽい」。例えば、ベイビーが拒むなか、3人の強盗仲間がデボラの働くレストランを訪れるシーン。仲間の一人で、2人の関係を知らないバッツがベイビーの肩に手をおき「俺の友達はここ(店)が嫌だと言った。なぜだ?」と、デボラに迫る様子や、恐怖を感じるデボラの表情がすごくリアル。それぞれの感情が肌に迫ってきます。

 あらすじを読むより、ごちゃごちゃ考えるより、とりあえずオープニングを見てください。もう見れば分かると思います。

聞き手・上江洲仁美

 

  監督=エドガー・ライト
  製作=米
  出演=アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ジェイミー・フォックスほか
 1981年生まれ。月刊フィール・ヤング(祥伝社)で「違国日記」、月刊マガジンビーボーイ(リブレ)で「さんかく窓の外側は夜」を連載中。
(2018年9月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)