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石川真澄さん(画家・絵師)
「時計じかけのオレンジ」(1971年)

アレックスの本質を表す目

石川真澄さん(画家・絵師)「時計じかけのオレンジ」(1971年)

 近未来のロンドンが舞台。悪事の限りを尽くす少年グループのリーダー、アレックスは、仲間割れにより殺人罪で投獄される。刑期短縮のため、人格を矯正する心理療法を受けるが……という物語。

 アレックスと同世代の高校生の頃に見て、その映像美とセンスに衝撃を受けました。正義感のたぎる思春期だったこともあり、暴力的な彼や、裏表のある自己保身的な周囲の大人たちの行動に強く反発を覚えたけれど、カメラワークやファッション、音楽など全てがかっこよくて。彼らがたむろするバーは「ミルクバー」。罪を犯す彼らの飲み物がミルクというのが、すごいセンスですよね。盗みや暴力など最低なことを、視覚面や音楽などのオブラートで包んで俯瞰(ふかん)的に、スタイリッシュに見せるのが、キューブリック監督の撮り方の妙だと思います。

 高校生の頃は視覚面にひかれましたが、今年、子どもが生まれてからは、この子がどう成長していくのかという目線で見て、社会はどうあるべきか、更生って何なんだろうとか深く掘り下げるように。50年近く前に作られた映画ですが、現代に通じる普遍性があって、考えさせられる作品です。

 マルコム・マクダウェル演じるアレックスの目が、この映画のだいご味です。ミルクのグラスを持って見せる攻撃的な上目遣い、政府の閣僚と写真に納まる時に見せる目つきなど、更生させられている期間には見せない、彼の本質を表す表情を描きました。

聞き手・下島智子

 

  監督・脚本=スタンリー・キューブリック
  製作=英
  出演=マルコム・マクダウェル、パトリック・マギーほか
いしかわ・ますみ
 映画「スター・ウォーズ」が題材の新作浮世絵「星間大戦絵巻 侍第師範(ジェダイマスター) 擁懦(ヨーダ)」を近く発売予定。
(2018年10月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)