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板垣巴留さん(漫画家)
「メッセージ」(2016年)

女性らしい強さで異生物と対話

板垣巴留さん(漫画家)「メッセージ」(2016年)

 エイリアンとのコミュニケーションを淡々と描いた異色のSFです。SFというより、一人の女性の感動的な生き様を見た気分になりました。

 地球上の12カ所に現れた楕円(だえん)体の宇宙船。今は存在しない娘との記憶を胸に生きる言語学者のルイーズは、国家の要請で船内のエイリアンとの意思疎通を試みます。彼らが操る墨のような円形の「文字」を読み解くと、人類への驚くべきメッセージが明らかに。

 地球へ来た理由を問うには、彼らに「疑問」という概念があるかを確かめなければならない。手探りのコミュニケーションが始まり、ルイーズがまずは防護服を脱いで顔をさらしたのが印象的でした。危険を顧みず、自分を知ってもらおうと「歩み寄る対話」を取った。女性らしい強さを感じました。

 もし本作が漫画だったら、青年誌で連載しているイメージですね。静かな人間ドラマや渋いセリフが大人向けな気がして。少年誌風にドンパチするSFも楽しいけれど、やっぱり「人間」が面白い。キャラクターの内面を掘り下げる大事さに気づかされました。

 伏線やどんでん返しも見どころです。複雑な時系列の謎には驚かされました。悲しい運命も受け入れる、終盤のルイーズの悟りを開いたような神がかった表情が忘れられません。

 イラストでルイーズの手の上に浮かべたのは、実際は巨大な宇宙船。人類へのメッセージは彼女に託されているのと、彼女自身が母親のような賢さと優しさでもってエイリアンと接していたので、このような構図にしました。

聞き手・星亜里紗

 

  監督=ドゥニ・ビルヌーブ
  脚本=エリック・ハイセラー
  製作=米
  出演=エイミー・アダムス、ジェレミー・レナーほか
いたがき・ぱる
 1993年生まれ。週刊少年チャンピオン(秋田書店)で「BEASTARS」を連載中。今年、同作で手塚治虫文化賞新生賞を受賞。
(2018年10月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)