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望月通陽さん(染色家)
「大魔神」(1966年)

悪人を見すえる目のすごみ

望月通陽さん(染色家)「大魔神」(1966年)

 悪人を見すえる充血した目。すべてを破壊する大きな手。大魔神の圧倒的な力に出合ったのは、染物屋から独立した24歳の頃でした。世の中に対していら立っていましたから、有無を言わせず悪を懲らしめる姿に爽快感を覚えました。

 舞台は戦国時代、魔神を封じた巨大な武神像がある丹波の領国。謀反で国を乗っ取った元家老・左馬之助が民を苦しめています。領主だった親を討たれた兄妹は洞窟にひそんで暮らしますが、兄が捕らわれの身に。さらに左馬之助は、武神像を壊す暴挙に出ます。窮地に陥った妹の涙にこたえて、大魔神が覚醒します。

 目こそ大魔神の象徴。スーツアクターを務めた俳優の橋本力さんが、まばたきをせずに演じたという逸話に驚きました。マスクからのぞく目のすごみが印象的。大魔神が暴れる場面は、粉じんが舞って見ごたえがあります。スタッフが手をかけて大魔神を生かそうとした。そんな現場に爪の先だけでも関わりたかったと、嫉妬してしまいます。

 書き文字から文字を打ち込む時代に変わっても、手を使って制作し続けたい。自動化が進み、「人間不在」が加速する時代への憤りが募ります。すべてを壊し、救う大魔神のような目や手が現れてほしいと願います。

 大魔神の登場は、最後十数分のみ。一方で、自分は「出っぱなしの大魔神」。制作中は自然と大きな気持ちになりますが、仕事を離れると鬼の形相になってしまう。困りものです。

聞き手・木谷恵吏

 

  監督=安田公義
  特撮監督=黒田義之
  脚本=吉田哲郎
  出演=高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎ほか
もちづき・みちあき
 1953年生まれ。ガラス絵や版画、ブロンズなど幅広く手がける。光文社古典新訳文庫の装画も。
(2018年11月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)