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松林誠さん(版画家)
「BLUE」(1993年)

心地よい青色の画面と言葉

松林誠さん(版画家)「BLUE」(1993年)

 この映画は、映画鑑賞というより映像体験です。エイズで死去した映画作家のデレク・ジャーマンの遺作で、画面は最初から最後まで青一色。当時、合併症で視力を失いつつあった彼の闘病や死への恐怖、過去の恋人たちへの思いと、青に関連する話を、本人をはじめ複数の人物が詩のような言葉で語ります。背景に、カフェや街中のノイズ、鐘の音など、様々な音と音楽が入っていて、声も音も心地いいんです。

 内容としては、生々しかったりもするんですけど、画面に映る青に重苦しさや深刻さはなく、清らかというか、爽快感さえ感じる。字幕をずっと追わなくても、ノイズと音楽を聴きながら、青い映像だけ流してもすがすがしく、白い字幕もリズミカル。でも、途中、強烈に睡魔に襲われることもあり、終わるとほっとする。解放されたなと。

 青という色はニュートラルで静かなイメージ。10年近く東京で制作した後、高知に戻ってから、いろんな色を使い始めました。中でも青は、空や海など、一番身近で体に取り入れている色かもしれません。東日本大震災後は、青い画面に自分だけの言葉を描いた「青い言葉」という作品を制作しました。

 夜、真っ暗な室内でこの映画を見て瞬きした時、一瞬網膜にピンク色が映り、青い面にいろんな模様が見えたんです。それを青いボールペンで表現しました。映画のように、見る人が自由に感じてもらいたいです。

聞き手・石井久美子

 

  監督・脚本=デレク・ジャーマン
  製作=英・日
  音楽=サイモン・フィッシャー・ターナー
  声の出演=ジャーマンほか
まつばやし・まこと
 1962年生まれ、高知市在住。2019年7月は東京・銀座の森岡書店、12月は吉祥寺のギャラリーフェブで個展を予定。
(2018年12月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)