初めて地元、松山の映画館で見た時、僕は19歳。ギャグのセンスが、当時の自分とすごくリンクしていたんです。
問題児の息子の高校受験でピリピリする家に、植物図鑑を持ち歩く大学7年生の家庭教師がやって来て、最終的に家の中を破壊して去っていく話です。バブル直前の悪くない景気や、核家族化で家庭内でも個人主義に向かう感じ、1980年代のふわふわした雰囲気がよく表れています。社会問題だったバット殺人の話題をブラックユーモアにして突っ込むなど、すごく新しい映画に感じましたね。
不条理な場面が多くて、松田優作演じる家庭教師がいつも飲み物を一気に飲むのも、ギャグ漫画に近いですよね。音楽を一切入れずに、食事の音を強調する演出をしていますが、伊丹十三演じる受験生の父親が目玉焼きの黄身をちゅーちゅー吸う場面も、まさに不条理漫画。伊丹十三の怪演が、見れば見るほどすごいんです。息子のライバルが訪ねてきた玄関先でも、後ろでただ笑っているだけの顔が最高でしたね。終盤、松田優作が食卓をぐちゃぐちゃにするんですが、破壊する姿がゴジラのように怪獣っぽい。いつも東京湾を船でやって来て、また船で帰っていく、えたいの知れない人物です。
結局まともな人間が一人も出てこない。それは僕の漫画とも似ているなと思って。説明なしで投げっぱなし。漫画ではツッコミがないとオチが伝わりにくいけど、映画ではこれが余韻を残すんですよね。
聞き手・中村さやか
監督・脚本=森田芳光
原作=本間洋平
出演=松田優作、伊丹十三、由紀さおり、宮川一朗太ほか わだ・らぢを
1964年生まれ。「イキナリどうだ」(週刊ヤングジャンプ)でデビュー。作品に「和田ラヂヲのここにいます」「猫も、オンダケ」など。 |