悪ふざけが好きな父親が、経営コンサルタントとして働く娘のことが気になり、ドイツからルーマニアへ。入れ歯と長髪のかつらで変装して架空の人物になりきり、娘の行く先々に現れます。その姿も行動も、とてもへんてこで謎だらけ。「なぜ」が積もり積もって、2時間半を超える長尺なのに何度見ても飽きませんでした。
父娘の関係も不思議です。娘は突然訪問してきた父親を、なぜか仕事のパーティーに連れて行きます。また終盤、祖母の葬儀に参列した娘に、父親が「義務に追われているうちに人生は終わってしまう」と伝えても、納得したのか分からないような表情。一筋縄ではいかない気がします。
映画の中には、格差社会や厳しいビジネスの世界など、様々なテーマが描かれています。私も一つの絵に色々な要素を盛り込むタイプなので、親近感が湧きました。一見まとまりがありませんが、様々な視点で見られて面白いのかもしれません。普段、映画は一人でじっくり見るタイプですが、これはホームシアターで友達と一緒に楽しめそうです。
食べ物をモチーフに描いているからか、気になるシーンは不思議と食べ物がらみ。例えば、部屋に忍びこんだ父親を見つけて、娘が激怒する場面。娘は、鍋に入ったパスタ麺を投げつけます。2人は対照的な性格ながら、やっぱり親子。同じギャグセンスを垣間見ました。
聞き手・木谷恵吏
監督・脚本=マーレン・アデ
製作=独・オーストリア
出演=ペーター・ジモニシェック、ザンドラ・ヒュラーほか かとう・やすみ
1976年生まれ。絵本「ともだちやま」「きょうのごはん」、近著に「クレヨンで描いた おいしい魚図鑑」など。 |