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榎本マリコさん(イラストレーター、画家)
「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008年)

心寄せる 少年とバンパイア

榎本マリコさん(イラストレーター、画家)「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008年)

 スウェーデン郊外の閉鎖的な町で、いじめを受けている12歳の少年オスカーが主人公。夜にひとりで復讐する妄想をして、憂さ晴らしをしています。そこへバンパイアのエリがマンションの隣の部屋に引っ越してきます。

 バンパイアものの単なるホラー映画ではなく、孤独や生きづらさを描いたストーリーに入り込みました。グレー、ブルーと色彩があまりない世界にどろっとした血の色。エリの青白い肌に真っ黒な髪と目。あのコントラストも良かった。ハリウッドでリメイクもされたけど、北欧の空気感がストーリーには合っていると私は思いました。半袖に裸足で雪の中にいるエリの姿が異様でしたね。

 エリの同居人ホーカンは、人を殺して血を取り、エリに捧げていました。でも中盤で警察に捕まってしまう。負傷した彼が入院している病室にエリがやって来ます。ホーカンは今までのような生活は続けられないと悟り、エリにかまれるんです。そのシーンが1番好きですね。いつ捕まるかわからない危険な生活が終わること、彼自身の血を与えることでエリとひとつになれたこと、両方の安堵の気持ちを感じました。

 英語のタイトル「Let the Right One In」は、正しい者を招き入れよという意味。お互いを受け入れ合う姿をイラストに描きました。エリは飢えた時に、獣のような声を出すんです。でもオスカーにだけは襲いかからない。「早く行って!」と言う。本能と理性がせめぎ合って、エリの人間らしさが垣間見える瞬間です。

聞き手・伊藤めぐみ

  監督=トーマス・アルフレッドソン
  製作=スウェーデン
  出演=カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデションほか
えのもと・まりこ
 韓国の小説「82年生まれ、キム・ジヨン」日本語版の装画や、季刊のライフスタイル情報誌「アンナマガジン」の表紙を手がける。
(2019年4月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)