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飯野和好さん(絵本作家)
「番場の忠太郎 瞼の母」(1931年)

迫力ある顔 片岡千恵蔵の安心感

飯野和好さん(絵本作家)「番場の忠太郎 瞼の母」(1931年)

 子どもの頃は邦画といえば時代劇、洋画といえば西部劇でしたね。その中で何度も何度も見てきたのがこの作品です。「瞼の母」は、昭和の間に数回映画化されていますが、片岡千恵蔵の大ファンなので、初期の無声映画、活動弁士付きのこれが好きですね。彼はとにかく迫力のある大きな顔で、画面に出てくると何とも言えない安心感があります。無声映画は弁士によっても印象が全然違い、松田春翠の名調子の活弁には胸躍ります。

 「瞼の母」は、渡世人の忠太郎が幼い頃に生き別れたおっかさんを捜して旅する物語。劇中にはもちろんチャンバラの場面も出てきます。忠太郎はやっと母を見つけますが、料亭の女将になっていた母に冷たく突き放されてしまう。立ち去る忠太郎が切ないんですよね。

 この映画は、私の絵本「ねぎぼうずのあさたろう」の元になった作品でもあるんです。股旅ものの絵本を作ろうと思ったときに、ふっと思い出し、改めてVHSを買ったり、長谷川伸の原作を読んだりして拵えました。

 若い頃は、ヨーロッパの童話や童謡を意識して描いていたんです。でも実際にイタリアを巡ったときに、背負っている「文化」の違いを実感し、日本の物語を描こうと決めました。

 絵本と映画は似ていると思いますね。だから「構成」にはすごく気を使っています。ページをめくった瞬間に場面がパッと変わる。次はアップでとか引きでとか、ページを繰るごとに様々な角度からの絵が楽しめるように工夫しています。

(聞き手・牧野祥)

 

  監督・脚本=稲垣浩
  原作=長谷川伸
  出演=片岡千恵蔵、浅香新八郎、常盤操子、山田五十鈴ほか
  弁士=松田春翠
いいの・かずよし
 1947年生まれ。股旅姿での絵本の読み語りを全国各地で続けている。6月下旬に新作絵本「火 あやかし」(小峰書店)を発売予定。
(2019年5月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)